窮地の錦織圭を救った、試合中に導き出した「確度の高いデータ」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そして、最終セットで0−3とされた時、錦織がはじき出した分析は、「あんなにいいプレーが続いたことは、この試合中になかった。しっかり自分のプレーを続けていれば、チャンスはあるだろう」である。「もし、このままのプレーをされたら、しょうがないな」......そんな諦念(ていねん)も、心のどこかで抱きながら。

 3ゲーム連取された直後のゲームで、錦織は早々に反撃の狼煙を上げる。相手の気持ちがフッと緩む瞬間を逃さず、バックの強打、さらにはドロップショットを決めてブレークしたこのゲームは、逆転の予感を瞬時に1番コートへと散布した。

 さらに、ここから先のゲームで、錦織はファーストサーブの確率を大幅に引き上げる。

 試合終盤にきて切れ味を増すサーブは、5セットの未体験ゾーンで心身の疲労を覚えていたジェレに、「ケイのサービスゲームでは何もさせてもらえない」との重圧を覚えさせるに十分だった。ジェレはファーストサーブが入らなくなり、錦織はポイントに直結しなくとも、セカンドサーブを叩いてプレッシャーをかけ続ける。そうして第8ゲームで再びブレークし、ついに相手の背を捉えた。

 そのブレークから、6ゲーム後――。ジェレのセカンドサーブに飛び込み叩いたバックのリターンは、相手の足もとに鋭く刺さる。窮屈に打ち返したジェレの返球がベースラインを超えた時、錦織は一斉に沸き上がる大声援を浴びながら、両手を天に突き上げた。

 死闘を制してから、約1時間後の記者会見。赤みが差す錦織の表情に浮かぶのは、安堵と疲労、そして、反省の色である。

 錦織が「今日の一番の反省点」に挙げたのは、第1セットを先取し、第2セットでも先にブレークしながら、40−0からブレークを許した第7ゲーム。「ああいうところをきっちり取っていれば、3セットで終わっていたかもしれない」との悔いが、純粋に勝利を喜ぶことを彼に許さなかった。

 全仏での4回戦進出は5年連続で、グランドスラム2週目は錦織にとって、すでにいるのが当然の場所。

 勝利からも改善点を持ち帰り、「あまり先は見ず、1試合ずつ」戦う姿勢を崩さぬまま、2年ぶりのベスト8進出を目指す錦織は、曲者ブノワ・ペール(フランス)が待つアウェーの戦地へと向かう。

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