錦織圭が逃さなかったツォンガ戦の転換点。4年で変化した力関係 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そのようなツォンガのプレーを、錦織は「あまり(全盛期と)変わらない。フォアは強烈だし、攻め方はトップレベル。球が浅くなると油断できないのは、他の選手よりも恐怖というか、プレッシャーは感じます」と述懐した。

 ただ、それは換言すれば、錦織が過去8度の対戦で5度の勝利を掴むカギとなった、「ツォンガ攻略法」が有効だということだ。

 ツォンガのバックハンドは、フォアに比べ、明らかに威力も精度も落ちる。そのバックを重点的に攻めつつ、なおかつ単調にならぬよう、フォアサイドにも深く重いボールを打ち込むのが王道の策。ただ、第1セット終盤は、「バックに集め過ぎたところもあったし、自分の球に伸びもなくなった」がために、相手のバックサイドに打ったボールを、回り込まれてフォアで叩かれた。

 錦織が第1セットを失った時、徐々に数を増やしたセンターコートの観客は一層ヒートアップし、ツォンガの背を押していく。だが、相手に一気に傾きかねないその流れを、錦織は柔らかなロブでせき止め、相手のお株を奪うフォアの強打で反転させた。第2セット最初のゲームをブレークすると、そのままこのセットを奪取。

 第3セットは先にブレークを許したが、続くゲームでひとつの転換点が訪れる。

 サーブに入ろうとするツォンガが、声援が静まるのを待つ間に規定の25秒が経過し、この試合2度目のタイムバイオレーションを取られ、ファーストサーブを失ったのだ。かくして得た相手のセカンドサーブのチャンスを、錦織は逃さない。

「申し訳ないが、このチャンスを生かしたい」

 そう思った錦織は、フォアでリターンウイナーを叩き込み、即座にブレークバックに成功。その後も要所で鋭いリターンを決めた錦織が、4−6、6−4、6−4、6−4のスコアで3時間2分の戦いを制した。

 冒頭で触れた4年前の対戦が今も語り草なのは、錦織劣勢の第2セット終盤、大型スコアボードを覆う金属板が剥落し、試合が約40分中断されるアクシデントが発生したことも大きい。この中断の間に頭を整理した錦織は、再開後にはプレーを立て直し、一方的に見えた試合をフルセットの死闘に持ち込んだのだ。

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