錦織圭「くるみちゃんにインスパイア」。5年前のナダル戦を思い出せ (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 身長155cmの小柄な奈良にとって、大柄な欧米の選手相手にいかに戦うかは、常につきまとう命題だ。その彼女が、数年前に急成長を果たした過程で「お手本」にしたのが、錦織である。とくに2014年は錦織と同じ大会に出ることも多く、プレーを間近に見る機会も増えた。

 そうして、錦織のプレーをつぶさに観察した彼女が、とくに感銘を受けたのはバックハンドだったという。

 クロスへのショットひとつをとっても、角度のつけ方や高低差、回転量やタイミングなど、あらゆるバリエーションに富んでいる。さらに奈良は、そのバックを活かすための組み立てや動きも、錦織のそれを参考にした。時には自ら錦織にアドバイスを求め、一緒にボールを打ってもらうことで、多くを得たこともあったという。

 そのようなプロセスを経て確立したテニスを、奈良は今大会の予選3試合......とくに2回戦と決勝戦でコート上に描ききった。

 クロスからストレートへの展開に加え、コート前方の空間を用いた角度あるショットで、相手を前後左右に揺さぶっていく。あるいは、高い軌道のボールで相手を押し下げ、返球には身体ごとボールにぶつかるように前に踏み込み、早いタイミングで鋭いショットを叩きこんだ。

 その奈良のテニスを見て、錦織は「いい動きをしているな」と、刺激を受けたという。

 この時、錦織が奈良のなかに見ていたもの――。それは、彼自身がかつて体現した、クレーでの理想のテニス像だったのかもしれない。

 今季のクレーコートでの戦いを、錦織は「物足りない感はある」と振り返った。試合勘や自信を、実戦のコートで十分に得たとは言い難い。

 代わりに、早めに会場入りして積み重ねてきた練習で、「毎日ちょっとずつよくなっている」との感触は得られているという。今大会からはチャン・コーチもチームに加わり、さっそく、技術面や戦術面でも仔細なアドバイスを受けた。ショットの精度や質を高めつつ、いかにそれらを統合し、ポイントに、そして勝利につなげるかを模索する日々。

 そのなかで目にした、数年前の自分のプレーを保存したかのような奈良のテニスは、彼が追い求めるべき地点を指し示す羅針盤となったかもしれない。

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