錦織圭「最近で一番ショック」なフェレールの引退に想いを馳せる (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 第2セットは立ち上がりから、互いにがっぷり四つに組んでの力勝負。攻守が激しく入れ替わるネット際の妙技の応酬に、声援を二分するスタンドも熱を帯びる。

 そのつばぜり合いから機先を制したのは、第9ゲームをブレークした錦織だ。その直後のゲームを落としたのは、本人いわく「自分の詰めの甘さ」だったが、続くゲームを再びブレークすると、最終ゲームは1ポイントも落とさずストレートで試合を締めくくった。

 冒頭で、錦織の初戦は大会4日目だと書いたが、実はこれは正しくはない。今大会での錦織はシングルスに先立ち、フアン・マルティン・デル・ポトロ(アルゼンチン)と組んだダブルスで1回戦を突破していた。

 現在8位のデル・ポトロは、昨年10月にひざをケガし、このマドリードが7カ月ぶりの実戦。そのデル・ポトロとダブルスを組んだのは、復帰を手助けしたいとの思いもあったのか?

 そう問われた錦織は、「20%くらいはありました」と答えた。12〜13歳の頃から知る長身の1歳年長者は、錦織が「僕のなかでは上の存在」と畏敬の念を向ける選手。度重なる手首のケガからデル・ポトロが復帰した時にも、錦織は「引退も考えただろうし、復帰はうれしい」と胸のうちを明かしていた。

 戦いの場に帰還した盟友がいれば、コートを去る先達もいる。元世界2位のダビド・フェレール(スペイン)はマドリードの2回戦敗退を花道に、約20年のキャリアに幕を引いたのだ。

 昨年8月の時点ですでに発表されていたフェレールの引退プランを耳にした時、錦織は「最近で一番ショックな出来事かも」と、悄然と口にした。

「彼が自分を、小さい頃から育ててくれたというか......」と言うほどに、ある種の恩義を抱いた存在であり、「年齢こそ違いますが、自分にとって一番のライバルであり、模範であり、目指すべき選手だった」のだ。それら、数々の名勝負を繰り広げてきたライバルたちの人生の交錯は、今年30歳を迎える錦織の胸に、ある種の覚悟と自覚を植えつけもしただろう。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る