半べそをかいてから3年。大坂なおみは赤土での戦い方を学んでいた (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

「今日の相手はリターンがいい。いいサーブが必要だということはわかっていた」と、彼女は試合を振り返る。同時に「欲を言えば、自分のサーブはもっとよくあるべき」だとも言った。

「ピンチな時ほどいいサーブが打てていたが、そもそもピンチに陥るべきではない」というのが、その理由。以前の彼女は、クレーでは自分の武器であるサーブの優位性が薄れると感じていたが、今はそのような先入観は抱いていないようだ。

 さらに、最近の彼女のクレーでの成長を促す要素を挙げるとすれば、それは、男子の練習や試合を多く見て、時にはトップ選手とボールを打つようにしていることだろう。

「男子選手は、女子に比べて戦略性が高い」と大坂は言う。

「女子は練習ですべてのボールを全力で打つ選手が多いが、男子はコースや球種を多く用いている」と感じ、そのような男子選手たちと実際にボールを打つことで、ラリーの構築法を体得しているところだ。

 そして、今の彼女が何より「よくなっている」と自信を深めているのが、スライディングに代表されるフットワーク。以前は、とくにフォアハンドではボールを打った後に滑ることが多かったが、今はスライディングしながらボールの落下点に入り、余裕を持って自慢の右腕を振り抜けるようになったという。

 その肉体的感性に目覚めたのが、今季のクレー開幕戦となるシュツットガルト大会の準々決勝。最終セットをゲームカウント1−5の危機から追い上げ大逆転勝ちを収めたこの熱戦で、大坂は「ふたりともすごくいいプレーをし、長いラリーで左右に走りまくるなかで、うまくボールに滑り込めた時に『おっ! これは楽しいぞ!』と感じた」のだと言った。

 赤土デビュー戦から3年経った今、彼女は、多くを知っている。

 赤土では、ハードコートのロジックをそのまま持ち込むことができないこと。自分が頼りにしてきた強打や高速サーブが、ハードコートほど効果的ではないこと――。

 そして、それら現実を敗戦の痛みとともに知ったからこそ、今の彼女はレッドクレーで戦う楽しみをも知っている。

 スライティングでシューズを赤く染めるたびに自信の色も深めながら、ベスト8に到達した21歳の世界1位は、さらにその先を目指している。

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る