2019.05.03

錦織圭、当時無名の18歳。
衝撃の初優勝は記者の人生も変えた

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 試合開始から、1時間26分――。うめき声をあげ放つブレークのショットが、力なくネットを叩く。

 その時、彼は眼の前に現れた栄光に慌てふためいたように、喜びと驚きと、かすかに狼狽の交じる色を笑顔に灯して、その場にしゃがみこんだ。

 表彰式では、錦織が日の丸を掲げてはにかんだ笑みを浮かべると、広報担当の女性が記者席に向かい、「コートに降りて写真を撮りなよ!」と手招きしてくれた。その女性は、現在はマイアミ・オープンのメディア担当者であり、今でも時おりデルレイビーチの思い出話に花を咲かせる。

 表彰式に続く記者会見等を終えると、すでに帰りの”レッド・アイ”に乗るため、空港に向かわなくてはならない時間だった。荷物を慌ただしくまとめ、駐車場に向かうと、ATPのプレス担当の男性が「おーい!」と叫び、後を追ってくる。息を切らせ、「これ、君のだろ? 忘れてたよ」と言って差し出された彼の手には、帽子が握られていた。

 彼とは今も、多くの大会で会い、こちらのウッカリにも苦笑いで対応してくれる。大会史上最年少の優勝者誕生の瞬間に居合わせた共通体験が、ある種の仲間意識を生んだのかもしれない。

 錦織が成したことに比べればなんとも卑近な話で恐縮だが、あの時、レッド・アイの航空券を買って飛行機に飛び乗らなければ、今の自分はまったく異なる人生を歩んでいたかもしれない――。

 個人的にもそんなターニングポイントとなった、平成最大の事件だった。

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