「カモーン!」削減で貝になる。大坂なおみ、無表情モードで初戦突破 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 この時も、第2セットでマッチポイントを握りながら落とした大坂は、第3セットでは本人曰く「心を空にし、ロボットのように淡々と司令を遂行」した。それには「無駄な感情の消費を避ける」効果があり、彼女が「ずっと取り組んできたこと」だという。同時に、常にポジティブな姿勢を維持し、自らを鼓舞し続けることも、彼女がここ数年留意してきたことだった。

 今回のマイアミ・オープン2回戦に話を戻せば、第1セットは闘志の発露がプラスに働いた。そして第2セットは、高ぶる感情が負に振れた。だからファイナルセットでは、彼女は意識的に「心のスイッチ」を切り替えた。

 冷静と情熱を両端に乗せ、最適な精神状態を求め揺れる心の天秤は、第3セットの中盤でピタリと均衡点を見つけたようだ。

 ゲームカウント3−1とリードした第5ゲームでは、相手のスーパーショットでブレークポイントを奪われるも、大坂は取り乱さない。続くポイントを時速111マイル(約178km/h)のエースであっさり取り返すと、試合の主導権をも完全に手中に収める。このゲームをキープし、続くゲームをブレークした大坂は、最終ゲームは相手に1ポイントも与えず勝利へと走り切った。

 試合から約1時間後。まだ"無感情モード"の余韻が抜けぬ風情の大坂は、第3セットの精神状態を淡々と次のように述懐する。

「感情を閉じた時は、『カモン』などは言わなくなる。貝のように殻にこもり、次のポイントのことのみを考えるようになる。だから、ポイントを取った時にも喜ばず、落とした時にも感情を見せず、とにかく先に進もうとしていた。もちろん、いいポイントを取った時には『カモン』と言うこともあるけれど、あまりに喜んで跳ねたりすると、気持ちが高ぶりすぎちゃうから」

 試合後の本人の表情からしても、彼女が自分のパフォーマンスに満足していないのは明らかだ。

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