錦織圭との濃密な6年間。トレーナーが語る「ケガをしてよかったこと」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文・撮影 text & photo by Uchida Akatsuki

 初期のころは、『こういうウォームアップをしたほうがいいよ』と指導したこともありますが、基本は選手に自分で考えさせるのが私の方針。それに圭は、やるべきことは手を抜かずにしっかりやります。そこは、彼はプロフェッショナルですから」

 ともに過ごした6年間の後半は、ストレングス&コンディショニングコーチにロビー・オオハシ氏が就いたこともあり、中尾氏の役割はケアにシフトしていったという。だが、就任した2013年当時は、身体の動かし方を指導することもまた、中尾氏の仕事だった。

「就任して最初の1、2年の私のミッションは、完全にケガの予防でした。とくに圭からは『左ひざが痛い。それをなんとかしてほしい』と言われたので、その抜本的な原因を取り除くことから始めました。『そのためには、9カ月はかかるよ』と本人に伝えたんですが、実際に2013年10月のジャパンオープンのころには、ほぼ痛みは出ないまでになっています。

 私の仕事の段階としては、痛みの原因を見極めることが第一。圭の打ち方や動きを見た時、打球時に体重が後ろにかかっていることに気づきました。ラファエル・ナダル(スペイン)もそうですが、打点が後ろだと、利き腕と反対側のひざに負荷がかかりがち。スクワットなどでも重心が後ろに入ると、ももの前の部分に力が入り、そうすると、ひざのお皿を通してつながっている腱(けん)に負担がかかります。

 そこで、打ち方や体重の乗り方も含め、重心の位置を変えてあげることが次のステップ。ただ、私はテニスの技術面に口は出しません。そこはコーチの仕事ですし、私が言うことで本人の打つ感覚が変わってしまうとよくないですから。そこで日ごろのトレーニングで、自然に重心が前になるよう誘導していきます。

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