マリー引退で錦織圭は覚悟した。全豪ベスト8の壁を今度こそ越える (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 対するマリーは、そこまで体力を温存しつつ勝ち上がり、錦織戦では心技体すべてで上回って相手を組み伏せる。グランドスラムで上位進出するには、序盤戦では余力を残し勝ち上がる必要があること、そして2週目でプレーの質を引き上げるだけの燃料タンクが必要であることを、錦織はマリー戦から学んでいた。

 一方で完勝したマリーにしても、猛追してくる錦織の息遣いを、背中に感じていたようだ。

「彼はとてもいい選手だ。意外性があり、緩急をつけるのがうまい。体は大きくないが、パワーがあり、コートの後方からでもラリーを支配できる」と称賛したうえで、「たしかに僕らは、似た点が多いと思う」と、錦織と自身の相似性を認めていた。

 さらにこの年の全豪時に、マリーは、錦織のフィジカルがいかに強化されたかについても言及している。

「最近は、ジムでよく圭を見る。体もずいぶんとフィットしてきた」と言うほどに、ジムで汗を流す錦織の姿は、ある種の危機感としてマリーの心に深い印象を刻んだようだ。

「圭はオールコートでプレーできるし、ボレーもよくなった。今までやってきたことを続けていけば、問題はない」

 自分の背を追う2歳半年少者に、エールとも取れる言葉をマリーは送った。

 それから7年の月日が流れ、ともに出場した今季開幕戦のブリスベン国際――。マリーは2回戦でダニール・メドベデフ(ロシア)に敗れ、自分のキャリアが終焉を迎えたことを悟る。かたや錦織は、決勝でメドベデフを破って優勝し、自信を胸に全豪オープン開催地のメルボルンへと足を踏み入れた。

 そのメルボルンで錦織は、マリー引退の報を耳にする。

「なんとなく、自分に直結してくる可能性もある。彼のプレースタイルだったり、すごくボールにくらいついて体力で勝負していたところもあるので......」

 可哀想というか、悔しいというか、いろんな気持ちはあります――。盟友の突然の引き際に、彼は自分の想いを重ねた。

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