鬼門を乗り越えた錦織圭は「ケガの少ない身体」になりつつある (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 錦織がウインブルドンで苦戦してきた訳は、サーブの優位性が高く、フットワークを活かしにくい芝のコートの特性にある。だが、それ以上に大きかったのが、ケガとの戦いだ。約2カ月間のクレーコートでの戦いを終え、芝へと移行した時、疲労と、それまでと異なる身体への負荷が重なり、ケガを引き起こす要因となってきた。

 その錦織が今年は、ウインブルドン開幕を控えた時点で「今のところ、どこも痛みはない」と、例年以上に状態のよさを口にしていた。

 実際に「テニスの聖地」で錦織は、芝巧者のバーナード・トミック(オーストラリア)や、ビッグサーバーのニック・キリオス(オーストラリア)らを退け、4回戦では強打自慢のエルネスツ・グルビス(ラトビア)をフルセットの熱戦の末に破る。準々決勝でジョコビッチに敗れるも、鬼門であった芝のシーズンをケガなく乗り越えたのは、これまで試行錯誤を繰り返しながら積み重ねてきたトレーニングが実を結んだ証左だろう。

 思えば、錦織がトレーナーのロビー・オオハシ氏にツアー帯同を依頼したのが、2年前のクレーコートシーズンである。遠征中もフィジカル強化に力を入れるためであり、さらにはその目的地を、「この先2、3年後が目安」と定めていた。

 あれから、2年――。手首のケガはあったものの、彼が望む「ケガの少ない身体」は今、たしかに築かれつつある。

 オオハシ氏の帯同のことで言うと、ハンマー投げの室伏広治を指導したことでも著名なこのトレーナーに錦織が望んだのは、強いフィジカルと同時に、速く動ける身体作りであったという。

 冒頭に触れたアンケートでも「動きのいい選手」の4位に入ったように、錦織のフットワークとスピードは誰しもが認めるところ。今季はとくに、どの選手も疲労に苦しむシーズン終盤戦にきても、錦織のコートカバー能力が際立った。ちなみに、今季の錦織が全米オープン後に戦った試合数は19。これはトップ10選手中、もっとも多い数字である。

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