錦織圭、2年ぶりのファイナルズ。39位から追い上げた力強さに期待大 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

 ひとつは、復帰を決める基準は、「すごくシンプル。自分のなかで、治ったと思えたら出るだけ」ということ。

 そしてもうひとつが、「復帰した最初の数週間はとくに大変だと思いますが、それもたぶん、苦しみながら楽しんでできると思う」という、待ち受ける葛藤をも受け止める諦念(ていねん)に似た覚悟。

 1年前のこの時期......彼の手首には依然、痛みと不安が絡まっていたが、それでも、心の針と視線はまっすぐ前を向いていた。

「復帰過程とは、もう言えない」

 そう錦織が断言したのは、5月のローマ・マスターズのときだった。4月下旬のモンテカルロ・マスターズで、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)やマリン・チリッチ(クロアチア)らを破って決勝進出。復帰以降、失われていたフォアハンドで鋭くボールを捕らえる感覚が、突如としてクレーコートの大会で甦った。

「毎試合、コートに向かうのが楽しみ」と言ったのも、ローマでのことである。1月下旬にツアー下部大会であるATPチャレンジャー1回戦で、238位選手への敗戦から始まった復帰の旅。それは、シーズンの折り返し地点に相当する全仏オープン終了時点で、3人のトップ5選手を破るまでに至っていた。

 今季の目標は、トップ10に戻ること。そして、ロンドン開催のATPツアーファイナルズに出場すること――。そう公言したのも、この時期のことである。

 全米オープンで復帰後初となるグランドスラム・ベスト4へと躍進した錦織は、多くの上位選手が疲労の色を濃くする全米後も、アジアの長い残暑と欧州の早い冬の気配のなかを駆け抜けた。9月の楽天ジャパンオープンでは、準々決勝で対戦した若手の旗手のステファノ・チチパス(ギリシャ)が、コート上で躍動する錦織のスピードに舌を巻く。

「彼のスピードに驚かされた。コートカバーの広さは、ラファエル・ナダル(スペイン)に匹敵すると思う」

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