大坂なおみ、「始まりの地」に立つ。全米オープンで初心を取り戻せ (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「周囲からの大きな期待を感じたし、もう自分は"アンダードッグ(下の立場)"ではない、と思うようにもなっていた」

 ランキングの上昇に伴う外界の変化と、それに呼応する心の動き――。それらは彼女にとって、「まったくもって新しい経験」だったという。

 それでも、手にした戦果に比例して増す重圧は、上に行く者が誰しも体験する通過儀礼だともいえるだろう。自身を客観的に見つめた大坂は、直近のシンシナティ大会では、「負けはしたが、正しい方向に進んでいると感じられた。ようやく、テニスが楽しいと感じられた」と記した。それは、憧れの存在であるセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)を破った、3月末のマイアミ・オープン以来の感覚だったという。

 大坂がコートに立つとき、彼女が戦う相手は常に自分自身であると、コーチのサーシャ・バジンを含めた多くの識者が断言する。闘志を前面に押し出しプレーしているときの彼女は、相手が世界1位であろうと関係ない......と。

 5ヵ月前のインディアンウェルズで、1位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)や5位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)を圧倒した大坂は、そのことを世界に証明した。ただ、その後の彼女は周囲が抱く"大物食い"のイメージとは裏腹に、自分より上位の選手に勝っていない。それはおそらくは、本人が独白した「もう自分はアンダードッグではない」との意識からくるものだろう。強者相手に無邪気に勝利を奪いにいくには、彼女は多くを背負いすぎた。

 128選手が参戦する今大会においても、第20シードの大坂が追われる側に属することは間違いない。ただ彼女は、世界のテニスシーンに躍り出た16歳のときから一貫して、目標は「世界1位と、可能なかぎり多くのグランドスラムで優勝すること」と明言してきた。その目指す地平の彼方から見れば、彼女はまだまだ挑戦者だ。

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