錦織圭が「友人」を倒して初戦突破。次戦は「問題児」でまたやりにくい (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 たとえば錦織との対戦が決まった後、ハリソンは父親であるコーチに球出しをしてもらいながら、錦織の高速リターン対策を繰り返していた。失うものはなく、なおかつ緻密な策をたずさえ全力で向かってきた友人との戦いが、難しいものだったのは当然だ。

 加えるなら、キャリアをあきらめても不思議ではない大ケガを幾度も負い、その度にコートに戻ってきたハリソンに、錦織は深い敬意を抱いてもいた。

「彼はツアーでもっとも努力する人。自分もケガが多いけれど、僕以上に多くのケガを乗り越えてきた」と弟分を評する声には、どこか自分の姿を重ねるような痛みもにじむ。その「愛着を覚える選手」に向けて、錦織は「彼がメインドローでプレーしているのがうれしい。必ずトップ100に入ってこられるはず」と熱いエールを送った。

 なお、余談になるが、皆が「いいヤツ」と声を揃えるハリソンもまた、他人の痛みに敏感であるようだ。IMGアカデミーを拠点としていた西岡良仁が昨年3月に前十字じん帯を損傷したとき、同じケガを経験したことのあるハリソンは、すぐに労(いたわ)りの言葉とともに、「自分のときはこのような治療やリハビリを試した」と助言のメッセージを送ってきたという。

 話を今日の試合に戻すと、錦織は8本を数えたダブルフォールトも含め、「修正しないといけないところ」を初戦のコートから持ち帰り、「レベルを上げていかないと、この先もちろん勝てない」と気を引き締めた。その意味では、次の試合はプレー面では今日以上に難解ではあるが、心理面では戦いやすい相手かもしれない。

 2回戦で対戦するバーナード・トミック(オーストラリア)は予選からの参戦であり、しかも予選決勝で敗れながら本戦に欠場者が出たため、繰り上がり出場した「ラッキールーザー」。ただし、現在のランキングこそ184位だが、7年前には18歳にしてウインブルドンベスト8進出を果たした、かつての「未来のスター候補」だ。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る