錦織圭は「テニスを楽しんでいるか?」と問われても、もう反発しない (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「マイアミまでは、ボールとの距離などしっくりいかない部分はありました。クレーでラリー戦が増えて、タイミングも掴みやすいのでストロークに自信がついたことは確かですね。あとはトップ10に勝てたのはすごく大きかったです」

 赤土の上でつかんだ"完全復活への手応え"の内訳を、錦織はそのように説き明かした。

 それら技術や戦術面と並び、錦織が取り戻した懐かしくもかけがえのない感覚が、「テニスを楽しむ気持ち」だろう。

 ローマ・マスターズのときに錦織は、ディミトロフ戦に「楽しみな気持ちで入れた」と言った。全仏オープンの初戦でも久々のグランドスラムに緊張を覚えるさなかで、ふと「楽しまないと」と思い立つ。2回戦の勝利後にも、「技術は必要だけれど、テニスってやっぱり、気持ちの持ちようで変わってくるので」と改めて実感したとも言った。

 かつての錦織は、周囲から「テニスを楽しんでいる?」と問われることに、小さな反発心を覚えているようだった。「楽しくっていうけれど、実際にはプレッシャーや身体の痛みとも戦っているわけで......」とこぼしたこともある。

 だが今は、その苦しみも含めて「楽しむ」ことを、彼は受け入れている様子だ。

「困難なときも、このシチュエーションをどう組み立てていくかとか、どうやって逆転するかというのを考えるのが楽しくもある」

 そのような喜びもまた、ラリーが続き、ドロップショットやロブなど多種多様なショットが効果的なクレーコートだからこそ、取り戻せた懐かしい感覚かもしれない。そういえば錦織は、12歳のころに体験した欧州クレー遠征で、大柄な海外の選手を手玉にとって連勝を重ねたことがある。そのうれしい記憶がしばらくの間、彼に「一番得意なサーフェスはクレー」と言わせていたほどだ。

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