錦織圭が、ハラハラ、逆転、フルセット。
「らしい勝ち方」も完全復活

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 対するディミトロフは、セットひとつ分のリードが精神面の重圧を取り払い、伸びやかにボールを打てるようになっていく。第2セットの第6ゲームを4連続エースでキープしたディミトロフが続くゲームをブレークした時点で、試合の趨勢(すうせい)は決したかに見えた。

 それでも、錦織はあきらめない。徐々に獲得してきた「自信」と「勝ちたい気持ち」、そして「挑戦者」としての気骨が窮地で集中力を研ぎ澄まし、プレーの精度を高めた。長い打ち合いを耐え、勇気を持ってバックのストレートやフォアのクロスで強打を放つ。勝利を意識してミスが増えた相手を終盤で捉え、逆転で第2セットを奪い返した。

 第3セットも錦織は先にブレークされ、際どい判定に気持ちが切れそうになりながらも、そのたびにミスを減らして相手に圧力をかけていく。ひたむきにボールを追う錦織の姿が、客席からの"ケイコール"も引き起こした。第8ゲームをブレークし、第9ゲームで面したブレークの危機をしのぐと、続くゲームではフォアのリターンウイナーを機に勝利へと大きく踏み出す。

 試合開始から2時間55分――。

 ディミトロフの優美な片手バックから放たれたボールがネットを叩いたとき、天へと広げた錦織の手からラケットがこぼれ落ちた。

「トップ10に勝てたのは、とても自信になる」

 試合後に、この勝利の意義を真っ先にそう定義した錦織は、「彼も苦労しているなかでいいプレーをしていたので、お互いいい試合ができたのが、まずはよかったです」と続けた。

 10代のころからともに「Next Gen」として衆人環視のなかを歩んできたディミトロフを、錦織は「すべてが整っている選手」と評し、「本当に1位や2位に入れるテニスをしている」と見る。おそらくはどこか自分と似たテニス哲学を持つ1歳半ほどの年少者について、彼は「尊敬してますし、いいライバルだと思っている」と言った。

 互いに20代後半を迎えた今、ふたりは異なる状況に身を置きながらも、未踏の高みを目指していることに変わりはない。その好敵手に「NEXT GEN ARENA」で競り勝った錦織は、またひとつ完全復活への手応えを握りしめ、次なるステージへと歩みを進めていく。

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