錦織圭の準優勝は、人生2度目の「ケガで前より強くなる」パターンか (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 ケガの功名――。そんな言葉を周囲の人々は口にしたが、プロとしてのキャリアも浅かった19歳は「この経験をプラスにしろと言われたって、離脱しているのにプラスに考えられるわけないじゃないか」と心のなかで独りごちた。それでも現状を克服し、未来につなげるためには、何かを変えなくてはならないことはわかっている。「ひじに負担のかからない打ち方に変えるべき」との助言も、複数の関係者から受け取った。

 このとき、錦織の周囲の人々の間では「打ち方を変えたら違うプレーヤーになってしまう」と反対の声も上がったという。だが、錦織の父親は「違うプレーヤーになったって構わない。大切なのは、ケガの再発を防ぐこと」と、フォームの改善を後押しした。

「あいつには、30歳になっても飛んでいてほしいけん......」

 復帰したばかりの息子を見て、父親はポツリと、そうこぼした。

 今回、手首のケガでテニスを長く離れたとき、錦織は今の自分を、8年前の自らと時折重ねることがあったという。

「あのときは、なんか無理やり自分のなかでプラスにしなくてはいけないという焦りもあった。今回はいろいろと経験して、自分がこれからもケガと付き合っていかなくてはいけない身体だと十分に認識しているので、だいぶ落ち着いて......無理やりプラスに考えようとしなくても、けっこうポジティブにいられます」

 復帰のめどがおぼろげながら見え始めた昨年末、錦織は心の現在地をそう述べた。痛めた手首への負担を軽減するために、サーブフォームの改善にも自ら積極的に取り組む。以前はトスの後に右足を軸足へと引き寄せていたが、「安定感を上げるため」に、肩幅ほどに開いたまま打つようにもした。

「サーブは徐々によくなっていますね。手首に負担がかからないようにしたいので、その意味ではよくなっています。足を動かさないフォームも、あれに変えてから打ちやすくなった。慣れが必要なのでもうちょっと長い目で見ないといけませんが、サーブはよくしていきたいです」

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