錦織圭、咳き込みながら初戦突破。
次のデル・ポトロ戦は復活の試金石

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 第2セットに入ってまもなくしたころ、遠く離れたセンターコートから大歓声が聞こえてくる。続いて響く主審の声は、ひじの手術から復帰して間もないノバク・ジョコビッチ(セルビア)が敗れたことを告げた。それは、ケガなどからの完全復帰がいかに困難かを通達しているかのようでもあった。

 ケガといえば、錦織とネットを挟むジョン・ミルマン(オーストラリア)も2度の肩の手術を経験し、昨年は股関節にもメスを入れている。その影響も少なからずあっただろうか。予選を含めてこれが4試合目のミルマンは、第2セット中盤から幾度も腰を拳で叩き、屈伸を繰り返すようになる。錦織は、そんな相手のプレーのレベルが若干落ちたことに気づいていた。

「彼のプレーがファイナルセットで落ちた感じがあった」ため、まずは「自分のレベルを下げない」ことを意識する。そのうえで「なるべく自分から攻め、相手にプレッシャーをかける」ことを心がけた。最終的に錦織に勝利をもたらした要因とは、潮目を見極める「試合の読解力」と、なにより「負けたくない」という意志にあっただろう。

 かくして錦織は、昨年8月に手首のケガで戦線離脱して以来、マスターズ大会では初となる勝利を掴み取った。その錦織が3回戦で対戦するのは、フアン・マルティン・デル・ポトロ(アルゼンチン)。先週のインディアンウェルズ優勝者であり、錦織とはジュニア時代からのライバルであり、そして両手首の手術から奇跡的な復帰を果たした、不屈の男でもある。

 自らもケガの多いキャリアを過ごしたためだろうか、錦織はデル・ポトロにシンパシーを覚えるような発言を、これまでも多く残してきた。デル・ポトロが左手首のケガで2年近く戦線離脱した際には、「復帰してもまた痛みが出たみたいで......かわいそうですね......」と深い同情を示した。2016年のリオ五輪で銀メダルを取るなど完全復帰の兆しを見せ始めたときには、「一時は引退も考えたでしょうから、うれしいですね」とその帰還を喜んだ。

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