大坂なおみ、喜びと寂しさと...。憧れのセリーナを倒して胸に抱く想い (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 大歓声に包まれるアリーナに、集中力と眼光を増すセリーナ。しかし、この窮状にあって大坂は、ほかからはうかがい知れぬ、ふたつのことを考えていた。

 ひとつは、「セリーナに『カモン』と言わせた」ことへの喜び。「カモン」の叫びは、セリーナが必死であることの証(あかし)。本気のセリーナが、目の前にいる......。その事実に胸を高鳴らせながら、大坂はさらに、こう考えた。

「こんなピンチのとき、セリーナなら、どんなプレーをするだろうか?」

 そして、彼女は118マイル(約190キロ)のサーブを叩き込み、ブレークポイントをしのいでみせた。

 続くポイントでは、100マイル(約161キロ)のスライスサーブをコーナーギリギリに放つ。完全に読みの逆をつかれたか、セリーナは「あっ......」と声を漏らし、自分から逃げるように切れていくボールを、ただ見送ることしかできなかった。

 ゲームポイントでも大坂は、103マイル(約166キロ)のサーブをピンポイントでセンターに打つ。快音を響かせた打球は、必死に伸ばしたセリーナのラケットの先をかすめ、後方のフェンスに跳ね返った。

 このときセリーナは、彼女がこれまで倒してきた者たちの失望を、自ら味わっただろうか......? 続くゲームでセリーナはダブルフォールトを犯し、自ら危機を招きこむ。その機を見逃さぬ大坂は、ロブなどの多彩な技でセリーナを翻弄しはじめた。

 心技体――あらゆる面でセリーナを上回った挑戦者がこのゲームをブレークしたとき、事実上の勝敗は決する。

 その分岐点から10分後......。セリーナのショットが大きくラインを割ったとき、大坂はガッツポーズも笑顔も見せることなく、足早にネットに駆け寄り、いつも以上に深く頭を下げた。

 胸に去来した想いは、「試合が終わってしまったことの寂しさ」だったという。握手とともにセリーナに声をかけられたときには、「頭が真っ白」になった。ひとつ確かなこと......それは、セリーナが「グッドジョブ」と言ってくれたことだった。

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