大坂なおみ、喜びと寂しさと...。憧れのセリーナを倒して胸に抱く想い (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 ゆったりとラケットを振りかざしたセリーナは、快音響かせサーブを打ち下ろすと、浮いた返球をすかさずバックで叩き込む。このゲームでセリーナは、大坂にまともにボールを打たせることなく4ポイント連取し、貫禄のスタートを切った。

 試合の立ち上がりで「ものすごく緊張していた」ことを、後に大坂は打ち明ける。

 ラケットで受け止めた打球の衝撃に「転びそう」になりながら、「ワーオ! これがセリーナのショットなんだ!」と、密かに感激も覚えていた。最初の3ゲームは、どこか夢心地のなかで過ぎていく。

 それでもブレークの危機をしのぎ、結果的に自分のゲームをキープしたことが、この試合最初の小さな......しかし、最終的に大きな変化を生むターニングポイントとなる。

 打ち合いでセリーナを左右に振り回す大坂に、気負いも気後れの気配もない。サーブの速度計に表示される数字も徐々に上がり、常時115マイル(約185キロ)を示すようになっていた。ゲームカウントが3-3になったとき、セリーナの姉のビーナスが客席を駆け下り、コートサイドの関係者席に飛び込んだ。そのビーナスも見守る眼の前で、大坂は直後の第7ゲームをブレークする。さらにはゲームカウント5-3からふたたびブレークした大坂が、セリーナから第1セットを奪い去った。

 セットを落とした事実を受け止め、表情を変えず淡々と第2セットのコートに向かうセリーナだが、その背中からは静かな怒りの感情が登り立つようだった。

 自分の背を追う者に負けるわけにはいかないという女王のプライドと、「憧れのセリーナに自分を認めてもらいたい」という挑戦者の無垢な情熱が正面からぶつかりあったのが、大坂サーブの第3ゲーム。30-30の場面で、大坂の119マイル(約191.5キロ)のサーブを鋭く打ち返したセリーナは、この日最初の「カモン!」の叫び声を上げた。

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