錦織が不在でも、大坂なおみがいる。
コートを支配して上位シード撃破

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

 相手のセカンドサーブがネットを叩き、最初のゲームでいきなりブレークが転がり込んだとき、大坂なおみは「考え方を少し変えた」のだと言った。

 グランドスラムに次ぐグレードのBNPパリバオープン準々決勝――。

 日没とともに急激に冷え込み始めた気温と、すり鉢状のアリーナを巻くように吹く風を、世界5位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)はどこか煩(わずら)わしく感じているようだった。

世界ランキング5位のプリスコバをストレートで下した大坂なおみ世界ランキング5位のプリスコバをストレートで下した大坂なおみ 本来ならプリスコバの大きな武器であるサーブが、この日は安定感に欠く。その相手の心の揺らぎを、大坂は試合開始直後の数ポイントで聡(さと)く読み取っていた。

「試合が始まる前は、自分のサーブに集中しようと思っていた。今日のような相手との試合では、自分のサービスゲームをキープすることがとても重要だと思っていたから。

 でも、最初のゲームでブレークしたときに、相手はサーブを打ちづらそうにしていると感じた。だから、リターンに集中するようにした」

 それは、微(かす)かなヒントを手がかりに下した、わずかな思考の方向転換。しかし結果的には、試合の趨勢(すうせい)を決する大きな決断となった。

「試合開始までの待ち時間が長かったからかしら。立ち上がりから、どうも私は集中できていなかった。寒くて日中とはコンディションがまるで違うし、今日は風も強かったし......」

 時計の針が21時に迫るなか始まった夜の試合に、経験や実績で大きく勝(まさ)るはずのプリスコバは、気持ちとプレーを乱されていた。

 対する20歳の大坂は、「寒さは特に気にならなかった。日中は風が強かったから心配したけれど、試合中はそれほどでもなかった」とサラリと言う。相手の心理を察し、素早く再構築した「なるべく多くのボールを返し、彼女を走らせる」という策も、ものの見事に奏功した。

 軌道が低く回転の少ない相手のショットをカウンター気味に打ち返し、自らはリスクを負わずにミスを誘う。劣勢に立たされた相手が流れを変えようと安全策を取り始めたら、今度は自慢のフォアを振り抜きウイナーを連発。コート上の時間と空間を支配した大坂が、第1セットを6-2で奪い取った。

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