ジョコビッチに激勝! 日本を拠点にした
ダニエル太郎の「いい兆候」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「普段ならここで、『試合は終わった。第3セットはジョコビッチに6-2や6-3で取られちゃうんだろうな』と思うところだった」

 試合後にダニエルが、ターニングポイントを振り返る。

「でも、今回はなぜかわからないけれど、大丈夫だと信じ、冷静でいられた」

 かつては無尽蔵のスタミナを誇ったジョコビッチが、炎天下のなか、疲労の色を深めていく様子もダニエルの目に映る。体力を削る長い打ち合いなら、ジョコビッチが「彼はどんなボールでも拾ってくるファイター」と評するダニエルの望むところ。時にベースラインのはるか後方に下がり、自分の時間を確保しながらジリジリとゲームを作るダニエルに対し、ジョコビッチはミスが増えていく。

 ゲームカウント2-1のジョコビッチのサービスゲームを、24本のラリーを塗り重ねて最後にフォアのウイナーでブレークしたとき、ダニエルの事実上の勝利は決した。マッチポイントでジョコビッチのショットがラインを逸れたとき、勝者はラケットを落とし、両手を握りしめてその場にしゃがみ込むと、アリーナを満たす大声援の熱を、しばらく背中で受け止めていた。

「僕のキャリアにとって、ものすごく大きな意味を持つ勝利」

 試合後のダニエルは、感激の面持ちを見せる。だが彼は、この1勝に浮かれたり、過度な期待を寄せることもない。かつて彼は、「僕のようなタイプの選手はコツコツ、少しずつ積み重ねて上がっていくしかない」と言っていた。今回のジョコビッチ戦の勝利も、その「積み上げ」の成果であり、この先につなげて初めて価値を帯びることを、彼は誰よりも知っている。

「今回は予選を突破し、本戦でも勝ってきたので、自信がまったく違う。3試合勝ってやっと、『この試合もいけるのかな』というのが出てくる感じでした。まだ完全に成果が出るには時間がかかると思いますが、こういう試合に勝ち始めているのは本当にいいサインだと思います」

 その「サイン(=兆候)」をより克明なものにすべく、ダニエル太郎はさらに上を目指す。

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