ジョコビッチに激勝! 日本を拠点にしたダニエル太郎の「いい兆候」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 だから彼は、今回のインディアンウェルズには「結果は求めず、もっとポジティブに考える」ことを目標に訪れた。父親やカリフォルニアに住む友人のテニスコーチからも広く助言を求め、その結果、耳にした言葉は「みんな同じで、とてもシンプルだった」とダニエルは笑う。

 前向きな姿勢を崩さず、結果は必ずいつかついてくると信じること――。

 その「シンプルだが、取り入れるのが難しいこと」を真に理解するために、彼は自分の心の奥深くにまで踏み込みながら、何が必要かを探し求める。そのような内省的な問答を繰り返した末に、日々の練習を楽しめるようになった時点で、彼はすでにひとつの目標を達成していた。

 予選から挑んだインディアンウェルズ・マスターズでは2連勝で本戦入り。本戦初戦も突破したダニエルは、2回戦で元世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)との対戦を迎える。

 試合の朝、ダニエルはセンターコートで練習しながら、「なんてバカでかいアリーナなんだ!」と、1万6000の客席が敷き詰められたセンターコートの景観に感激を覚えていたという。その練習の数時間後......観客で埋まったアリーナに足を踏み入れ、アナウンスされるジョコビッチの名に呼応する大声援を耳にしたときには「ナーバス」にもなった。


 だが、いざ試合が始まると、ジョコビッチの調子が万全でないことに気づく。昨年の夏から今年の全豪オープンまで約6ヵ月間コートを離れ、2月上旬には検査手術も受けたジョコビッチには、たしかに「精密機械」と呼ばれた往時のショットの精度がない。

 第1セットで先にブレークされたダニエルだが、ゲームカウント3-5からブレークして追いついたとき、「いける!」と心の声がした。ポジションを高く保ち、ボールを深く打ち返しながら、機を見てバックをストレートに打ち込んでいく。第1セットはタイブレークの末に、ダニエルが奪い取った。

 第2セットに入るとダニエルは、より攻勢に出て主導権を奪いにかかる。

 しかしジョコビッチには、いかに不調なときでも、あるいはどんなに追い詰めたられた状況下からでも、蘇り、試合をひっくり返す力がある。試合の趨勢(すうせい)はダニエルにありながら、気づけば最終ゲームをブレークしたジョコビッチの手に、第2セットは渡っていた。

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