誰よりも世界を知る伊達公子が「日本テニス界に伝えておきたいこと」 (4ページ目)

  • 神 仁司●文・写真 text & photo by Ko Hitoshi


 ヨネックスのイベントでは、岐阜県のジュニア女子選手に練習をつける場面もあり、伊達がコート上でアドバイスをした。短い練習中でも、「コントロール!」「ポジションを前へ」と、伊達の指示は、たとえ一言であっても逐一的確であり、やはり彼女の慧眼(けいがん)は世界一流だ。そして、その言葉はワールドツアーでの実績と実体験に基づいたものであり、何にも増して説得力がある。

 2014年からワールドツアーで、グランドスラム優勝経験のある元選手をツアーコーチとして採用する、いわゆるレジェンドコーチの起用が多く見られるようになった。それは、選手たちがレジェンド選手のメジャー大会での優勝実体験に基づく説得力のあるアドバイスを求めたからだ。代表的な例として錦織圭が、マイケル・チャンをツアーコーチに招聘したのもそうした理由からだった。

「私はコーチに向いていないので、今のところそういう予定はないかな(笑)」と伊達自身が話すように、ツアーコーチとして選手に帯同するのは現実的ではないかもしれないが、第1次キャリアの7年8カ月(1989年3月~1996年11月)と第2次キャリアの9年半で残した、世界的にも稀有な成功体験に基づく伊達のアドバイスを後進に伝えないのは、正直もったいない。「名選手必ずしも名コーチにあらず」という言葉もあるが、現役プロ選手にも、将来のプロ候補となるジュニア選手にも、伝えるべき伊達のエッセンスは必ずあるはずだ。

 プロテニス選手としては超高齢となる37歳から46歳まで続いた伊達の現役再チャレンジが人々の心に訴えかけながら、残した最も大きな功績は、やはり挑戦を続けることの大切さだろう。このことこそが、最高の"伊達レガシー"といえるのかもしれない。

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