「ラケット破壊」への悔い。
感情を抑え込んだ加藤未唯が最後に笑うまで

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「転機」や「ターニングポイント」のような言葉を、彼女はあまり好まない。

 それは、逆転ホームランもラッキーパンチもない、テニスという競技に生きるなかで自然と身についた、哲学のようなものかもしれない。

ジャパンウィメンズオープンで準優勝した22歳の加藤未唯ジャパンウィメンズオープンで準優勝した22歳の加藤未唯 それでも時に、ひとつの試合や出来事が選手の覚悟や想いを変え、その後に進む道をも大きく変えることがある。加藤未唯にとっての"転機"は約4週間前のニューヨーク、本人が「一番好きな大会」だと言う全米オープン本戦出場をかけた予選決勝戦のことであった。

 身長156cmの加藤は、その小柄な身体に備えた高い運動能力とテニスセンスを、溢れんばかりの闘争心で掻き立て戦う22歳。だが時に、高ぶる感情を制御しきれず、プレーが乱れることもあった。

 この全米オープン予選決勝でも、加藤は闘志を前面に押し出して戦い、なおかつ集中力を切らすことなくすべてのボールを全力で追った。しかし結果は、3時間近くの死闘の末の惜敗。

 その最後のポイントでのことである。

 必死に走り、ラケットを伸ばすもわずかにボールに届かなかった彼女の目の前に、敗北の事実を突きつけるかのように大きなスコアボードが光る。その現実を拒絶するように、彼女はボールを、そしてラケットをスコアボードに叩きつけた。

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