もう苦しい涙はない。伊達公子が戦いを求め続けた2年半の月日 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 8月28日――。全米オープン開幕日に発表された引退の報は、ニューヨークにも当然のように、小さくない衝撃を伴い伝わる。

 今年4月、公式戦復帰に先駆けて行なわれたエキシビションマッチの相手を務めた日比野菜緒は、「一番に感じたのは、寂しいなという思い」だと言った。昨年はグランドスラムで勝てず、悩んでいたときに伊達からもらった助言が一条の光になったと、かつて日比野は言っていた。

「あれだけの情熱を持ってテニスに取り組んでいる方は、身近では伊達さんしか思いつかない。一番尊敬していて、目指す人だった」。もちろん引退されてからも、引き続き目標です――そう加えて、日々野は小さな笑みを浮かべた。

「もう1回、遠征をまわり、一緒にご飯などに行けるかなと思っていたので、残念です」

 そう感傷を声に乗せる奈良くるみは、復帰後の伊達との関わりがもっとも深い選手のひとりである。9年前に伊達が最初の復帰を果たしたとき、ダブルスパートナーとして白羽の矢が立ったのが、当時16歳の奈良だった。

「特に私と(土居)美咲は、復帰初戦からダブルスを組んでもらったり、一緒に練習したり、すごくお世話になってきた。伊達さんから学ぶことは本当に多かったし、あそこまでプロフェッショナルな方もいない」

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