もう苦しい涙はない。
伊達公子が戦いを求め続けた2年半の月日

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 奇しくもというべきか、1年の空白からの再復帰戦も同じ開催地の「カンガルーカップ国際女子オープン」となる。9年前のあの日と同じように、多くの観客たちが期待と少しの不安を抱えて見守るなか、彼女はコートへと帰還した。

 いくぶん白くなった肌が、そして傍目(はため)にも細くなったことがわかる足が、長いリハビリの日々を物語る。ただ、獲物を射るような鋭い眼光と、張り詰めた弦を思わせる緊張感や勝負師の本能には、少しの陰りも感じられない。試合自体は初戦で22歳の朱琳(中国)に2-6、2-6で敗れたが、彼女は「やっとスタートラインに立てた」と笑顔を見せた。

 この復帰戦の数日後、彼女は次なる試合を戦うために韓国へと旅立った。審判もおらず、スコアボードも自分たちでめくらなくてはいけない下部大会の予選試合。その予選3試合を勝ち上がるが、本戦の初戦で肩の痛みがひどくなり、第2セットの途中で棄権している。以降、彼女は今日まで2試合を戦うが、痛みが消えることはなかったという。

 それでもこの夏、彼女は戦いを求めていた。公傷による長期欠場選手の救済処置「プロテクトランキング」を用い、全米オープン予選に照準を合わせていたのだ。その準備として、カリフォルニアやカナダで開催される前哨戦にも出場を予定していた。宿泊先を確保し、現地にいる関係者たちに連絡を入れ、最後の瞬間まで彼女は戦地に立つことを渇望し続けた。

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