もう苦しい涙はない。伊達公子が戦いを求め続けた2年半の月日 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 以降の彼女はいかなるときも......少なくとも報道陣を前にしたときは、前向きな姿を崩さなかった。痛みの理由が「大転子(だいてんし)の滑液包炎(かつえきほうえん)」という聞き慣れぬ症状であることを諧謔(かいぎゃく)的に語り、「こんなよくわからないケガが理由でやめるわけにはいきませんよ」と笑みを広げた。臀部のみならず肩、そしてひざにも痛みを覚えながらも、戦いをやめようとはしなかった。

 しかし2016年初頭、亀裂が入った半月板は、もはやプレーの継続を許さぬほどに激しい損傷状態に至る。それでも同年2月、彼女は再復帰を目指し、ひざにメスを入れることを決意した。しかも手術は一度で終わらず、4月21日に再手術を受ける。

『コートへ立てる日がいつ訪れるのか?? 初めてのことだらけで今の時点ではなんとも言えない状況ではありますが、大きな1歩を踏み出すことになることは間違いないです。』

 現状をファンに伝えるブログには、そんな前向きな言葉をつづった。

 術後の彼女がふたたびコートに立ったのは、最後の手術から約1年後の今年5月上旬のことである。場所は、岐阜の長良川競技場。そこは9年前の2008年――当時37歳の彼女が"クルム伊達公子"として、12年におよぶブランクから復帰戦を戦った場所だった。

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