「自動操縦」が切れた錦織圭。マリーは退屈なドリル練習で蘇っていた

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 強打をコーナーに打ち分け相手を左右に走らせた後、弓の弦を引き絞るような大きな構えから、突如としてラケットを優しく振り下ろす――。その瞬間、ボールを打つよりも早く客席から溢れる、ため息混じりの称賛と感嘆の声。

アンディ・マリー(左)に敗れて準決勝進出を逃した錦織圭(右)アンディ・マリー(左)に敗れて準決勝進出を逃した錦織圭(右) 全仏オープン準々決勝の錦織圭vs.アンディ・マリー(イギリス)戦。錦織が世界1位を完全に翻弄した第1セットは、最後はドロップショットで柔らかく終止符が打たれる。試合開始からわずか33分、スコアは6-2。番狂わせが起こる予感に、強風が吹き抜けるセンターコートは、どこか落ち着きを失っていた。

 しかし試合の潮流は、第2セットの序盤から徐々に......しかし確実に、変化の兆しを見せはじめる。第4ゲームで立て続けにミスを重ねた錦織は、最後はダブルフォルトでゲームを失い、そのままセットも失った。

 第3セットは一進一退の攻防となるが、タイブレークの最初のポイントでフォアを大きく打ち損じ、続く打ち合いでバックをネットにかけた時点で、勝負の綾は一気に世界1位へと流れ込んだ。

「1セット目はすごく落ち着いて、作戦どおりに自分のやるべきことを的確にできていた」

 試合後の会見室で悄然としながらも、錦織は冷静にゲーム展開と、そのときの心境を振り返る。

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