ピンチを救ったチョン戦「恵みの雨」。
錦織圭は半日で何を変えたのか

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 第2セットをも奪い、すべての面において優位に立つはずの錦織だが、第3セットに入っても彼の苛立ちや集中力の断線は要所要所で顔を出す。第3ゲームでもリターンを大きくふかした場面で、「あー、もう!」と叫び声を上げた。

 対するチョン・ヒョンは、「楽しみにしていた一戦で、このまま終わりたくない」という無垢な想いがボールを追う活力となる。その相手のひたむきさの前に、ミスが増えていく錦織。第3セットはタイブレークの末に、チョン・ヒョンが奪い返した。

「イージーミスがなければ、6-3くらいで取れていたセット」

 後に錦織は、第3セットをそう省みる。己に募らせた鬱憤(うっぷん)の最大の原因は「リターンミス」。

「リターンがもう少し入っていれば、もう少しスムーズに進んだと思う」

 自信を持つリターンから思うように試合を作れなくなっていたことが、他のプレーにも影響を及ぼしただろうか。灰色の空から落ち出した雨が赤土に黒いシミを作るなか、第4セットでの錦織はミスが止まらず、3ゲームを連続で落とす。ラケットを叩きつけ、メディカルタイムアウトを要求したまさにそのとき、雨脚は試合継続不可能なまでに威力を増した。中断の約2時間後には、全試合の翌日への延期が発表される。冒頭でも触れたとおり、錦織も認める、これ以上ないタイミングでの恵みの雨であった。

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