錦織圭「ここが好きだ」の自己暗示で
苦手コートを克服し、難敵に完勝

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「ポジティブに......そんなに好きじゃないこの大会のコンディションを、無理やり『好きだ』と自分に思い込ませるようにしています」

 初戦(1回戦免除の2回戦)を6-3、6-4で突破した後の会見で、錦織圭はインディアンウェルズ・マスターズに挑む心構えを、そのように説明した。

今季初の初戦ストレート勝利を挙げた錦織圭今季初の初戦ストレート勝利を挙げた錦織圭 すでにATPマスターズ1000で3度の決勝進出を果たしている錦織だが、インディアンウェルズに限って言えば、昨年のベスト8が最高成績。初戦敗退も3度経験しているこの大会は、彼がもっとも苦しんでいる地のひとつである。

 その過去に加え、今年は初戦の対戦相手も、苦戦を予期させる選手であった。

 錦織ファンにとって"ダニエル・エバンス(イギリス)"は、ある種の悪夢を想起する名だ。

 それは、2013年の全米オープン――。当時世界ランキング12位の錦織は悲願のトップ10入りをかけ、この全米に挑んでいた。ところが初戦で、予選から勝ち上がってきたエバンスにまさかのストレート負けを喫する。

 エバンスはかつて、もっとも才能豊かな若手として母国の期待を集めた選手。しかし、度重なる練習態度や素行の悪さがアキレス腱となり、持てるポテンシャルを発揮しきれずにいた。2013年の全米で錦織を破ったときには「ついに覚醒したか!」と英国報道陣を色めき立たせたが、その後も公私を含め迷走は続く。2014年には5年間師事したコーチのジュリアン・ホファーリンにまで、「彼にとって、テニスは単なる余興だ」と愛想を尽かされていた。

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