激闘の錦織圭が、グランドスラム制覇に
「あと少しだけ足りないもの」

  • 神 仁司●文・写真 text & photo by Ko Hitoshi


 さらに「足がかなり重かったです」という錦織に追い討ちをかけたのが気候だ。気温は30℃を超え、湿度も約70~80%と、ニューヨークらしからぬ蒸し暑さでタフなコンディションとなり、彼の足かせのように体力を蝕(むしば)んでいった。

 逆に「少しずつ速く、少しずつ重く」と語るように徐々にプレーが上向いてきたワウリンカは、得意のシングルバックハンドストロークで、ダウンザラインやクロスへ打ち分け、錦織をコートの左右に走らせた。

 試合の後半になると、「疲れて思考能力が低下した」という錦織は体力が落ちるとともに、状況判断能力も落ち、ネットプレーに偏り過ぎる形になった。本来、相手の意表をつくネットプレーをミックスしながらポイントを取るのが錦織であり、それがツアー屈指のショットメイカーの魅力なのだが、今回に限ってはやや単調になった。

 第3セット第7ゲーム後に、降雨によって屋根が閉められ、空調の効いたインドア状態になって蒸し暑さは解消されたが、疲労した錦織に本来の思考能力は戻らなかった。結局、錦織のセカンドサーブのポイント獲得率は第3セット31%、第4セット25%まで落ち込み、さらに試合の後半にワウリンカのミスは減ったが、逆に錦織のミスは増え、最終的に47本のミスを犯した。

 リオ五輪を含めて、いつも以上にタフな夏の北米ハードコートシーズンだったが、錦織はUSオープンにピークを合わせてきた。大会第1週目はややもたつきがあったものの、第2週目に入ってギアアップし、準々決勝で第2シードのアンディ・マリー(2位)を倒してベスト4入りを果たした。この意味では、USオープンでのピーキングがうまくいったと評価できる。

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