錦織圭が残したリオ五輪の余波。
日本人選手、それぞれの成長物語

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そのときの体験が、多少のコンプレックスになりもした。その後は、足と頭を使ったテニスを確立し、躍進のときを迎えるも、今年は「結果で自分の進歩を測ろうとして、試合を楽しめていなかった」がために、コートに向かうのが辛い日々を過ごしもする。それが今回のシンシナティでは、持ち前のスピードと頭脳をフル稼働し、かつて衝撃を覚えた相手と対等に向き合った。

「いろんなバリエーションをつけていけば、パワーに対しても戦えると、今は思えます」

"今"を強調する口調に、迷いはなかった。

 その奈良が、五輪での杉田たちを見て感じた想いを知ったとき、当の杉田は、「いや~、くるみちゃんだったら、オリンピックでも十分に戦えたと思いますよ」と、エールとも思える異見を述べた。ツアーを主戦場とする奈良の実力をよく知るのは、杉田自身が今現在、ATPツアーに定着するための戦いに挑んでいるからだろう。

「僕も、"ATPツアーの一員"なので」

 先週のシンシナティ・マスターズで予選を突破し、本選出場を決めたとき、杉田は自分に言い聞かせるように言った。

 グランドスラムやマスターズなどで、結果を残せる選手になりたい。そのためには、常にツアーの一員として上位大会に参戦し、トッププレーヤーたちがしのぎを削る戦場に身を置かなくてはならない。

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