「成長を測る存在」ナダルを撃破。
錦織圭の銅メダルは強さの証

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by JMPA

 第2セットも錦織は攻撃の手を緩めず、5-2と大きくリードし、勝利まであと1ゲームに迫る。だが、長いキャリアのなかで多くのケガを経験し、そのたびに噴出する懐疑的な声を結果で封じてきたナダルは、ここでも安易な降伏を拒絶した。激しくコートを蹴ってボールを追い、最後の一歩を必死に踏み出し、全身をしならせて左腕を振るう。驚異の反撃で錦織の背を捕らえたナダルが、タイブレークの末に第2セットを奪い返した。

 完勝の筋書きから一転、どちらに転ぶかわからぬ激闘へとシナリオを書き換えられた錦織に、落胆がなかったはずはない。だが、最終セットを迎えたとき、彼が己を信じる根拠としたのは、「ファイナルセットは、いつも粘って勝てている」という、積み重ねてきた日々で築いた実績だったという。

 第3セットでの錦織は、遠い先を見るのではなく、目の前の一打一打に集中する。その蓄積が第4ゲームのブレークを生みだし、その後も慎重かつ大胆に、サーブとストロークを連ねていく。

 試合開始から、2時間49分。対ナダル戦2勝目を錦織にもたらしたサービスウイナーは、この日彼が手にした、106本目のポイントであった。

 オリンピックとは錦織にとって、出るたびに「自分を成長させてくれる場所」なのだという。今大会で彼は、その夢舞台特有の一戦において、これまで常に自分の成長を測ってきた存在を破って制した。

 結果、手にした栄光は、銅色に輝くメダル――。それは、たしかな強さと進化の証(あかし)であり、同時に、目指す高みはこの先にあることを告げる"マイルストーン(距離標識)"でもあるはずだ。

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