「苦手」なコートで「苦手」なイズナーを撃破した錦織圭の戦略 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

「これ以上の場所は望むべくもない。僕にとっては、パーフェクトなコート」

 錦織との試合を控えたビッグサーバーは、長身にはやや不釣り合いな童顔をほころばせ、自信たっぷりにそう語った。

 対して錦織は、このインディアンウェルズのコートを、他のどこよりも苦手とする。跳ねる上に「飛び過ぎる」ボールの制御に苦しみ、過去7回の出場のうち、初戦敗退は実に4回。最高成績が昨年の4回戦という戦績が、相性の悪さと苦手意識を如実に浮かび上がらせる。「このコートは、パワープレーヤーのほうが有利」との思いは、究極のパワープレーヤーであるイズナーと戦う上で、精神的な負荷にもなったはずだ。

 果たして試合立ち上がりは、不安要素のことごとくが、コート上で噴出する。

 当初の錦織の"イズナー対策"は、リターンポジションを可能な限り下げ、相手のサーブが跳ねて落ちてきたところを叩くことであった。だが、「スタジアム2」ではフェンスに背がこするほど下がっても、相手のスピンサーブは頭より高い位置にまで跳ねてくる。

「あと2メートルくらいは、下がりたいのに......」

 リターンで抱えた歯がゆさは、すべてのプレーに影響を及ぼした。いつもなら、低い弾道で相手コートに刺さるバックのストロークはラインを越え、美しい弧を描くはずのフォアの強打はネットを叩く。コースの読みが「90%くらい外れ」、サーブの攻略法も見つからないままベンチに戻った錦織は、ラケットを乱暴に地面に置くと、うな垂れた頭を左右に振った。第1セットは、わずか23分で1−6のスコア。

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