グランドスラム今季終了。女子テニスの勢力図は変わったか? (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 しかし、ブシャールは今季、全仏オープンとウインブルドンで初戦敗退を喫し、5位まで上がったランキングも現在は26位まで下降。ムグルサもウインブルドン以降は、今年の全米オープン初戦が唯一の勝ち星というスランプに見舞われている。ただひとり、ハレプが孤軍奮闘しているものの、グランドスラムに限っていえば、彼女も今季の全仏オープンで2回戦、ウインブルドンでは初戦敗退と、やはり苦戦を強いられている。

 これら若手勢の揃っての不調は、決して偶然ではないだろう。未来のスター発掘に躍起になるマスメディアや女子テニス界は、少しでも可能性の光を放つ選手に一気に飛びつく。結果、多大な注視とプレッシャーのなかで、若い精神と肉体は急激にすり減ってしまう。

 もっとも現在の傾向は、なにも悲嘆することではない。若い選手が勢いだけで一気に頂点まで駆け上がれないのは、時間をかけてフィジカルと技術に研さんをかけ、それらを経験によって統合してコート上で発揮できるより完成度の高い選手が上位を占めている証左でもある。そして、幾重にも交錯する選手たちの足跡で織り上げた物語は、重層な深みを持つ。

 現在のトップ10には、2008年に全仏オープンを制して世界1位に座しながら、その後50位以下までランキングを急降下させ、苦しい時期も経験した27歳のアナ・イバノビッチ(セルビア)がいる。2009年に19歳で全米オープン準優勝し、「次期女王」と期されながらもいまだグランドスラムに手が届かず、しかし必死に手を伸ばし続けている25歳のキャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)もいる。彼女たちはペンネッタやビンチの姿に、挑戦し続けることの意義を見出したはずだ。

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