ケガの不安を吹き飛ばした錦織圭のパーソナリティ

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 白を基調としたウェア着用を選手に強いるウインブルドンの品格と威厳は、プレスルームにも及んでいる。会見には、ジャケットを上品に着こんだ英国紳士が同席し、粛々(しゅくしゅく)と質疑応答を仕切っていくのだ。しかも今年からは、日本語のやり取りまでもが同時通訳され、この司会者に伝えられるという。ただでさえ重厚な会見場の空気が、より重みを増すようであった。

 そのような重々しい雰囲気の中、錦織ひとりが拍子抜けするほど、いつも通り軽やかである。

「テニス自体は、すごく......というほどではないですが、良かったは良かったです」

 錦織は自分のプレーに、極めて肯定的だった。

「ストロークは良かったです。相手もタフなプレーヤーなので、最後に集中力を上げて勝てて良かった」

 さらには、「今日は初めて、芝の上でスライドをコントロールできるようになった」と笑顔を見せる。芝は意図せぬところで足が滑ることがあり、それを防ごうとするがために、ふくらはぎやひざに負担が掛かると言われている。錦織もこれまではたまたま足が滑り、「おおっ、あぶなっ!」と焦ったことはあったが、意識的にスライディングを制御した経験はほとんどなかったのだという。この日も自分の試合直前にノバク・ジョコビッチ(セルビア)を観戦し、芝の上をも自在に滑る世界1位の動きを見ながら、「あれをできればいいな~」と憧憬の念を抱いていた。

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