噛み合わない歯車。4年前を思い出させた錦織圭の全仏 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 心と身体が別々のベクトルを向き、互いに足をひっぱりあっているかのようだった。錦織が放つストロークは時おり、糸の切れた凧のようにラインを大きく逸れていく。ツォンガの勝利を願うスタジアムのファンは、熱狂的な声援で疾走する地元の英雄の背を押した。

「自分を見失っていた」

 試合後に錦織はそう言い、目を伏せる。

 アウェーのセンターコート、吹き付ける強風、想定外の相手のプレー……。それらが重なりあう中では、今大会ここまで1セットも落としていない世界5位の錦織ですら、このような崩れ方をしてしまう。テニスという競技の恐ろしさを、まざまざと見せつけられたようだった。

 迷走する錦織を救ったのは、あまりに予想外のアクシデントだった。強風にあおられたためか、スタジアム上段に設置されているスコアボード付近の金属板が、客席へと落下したのである。幸い、3人の軽傷者で済んだものの、安全確認のために試合は約40分中断された。

 この間に錦織は、コーチのアドバイスを受け、頭を整理し、戦術にも修正を加えてコートに戻った。

 「圭がコーチのアドバイスを受けて、決意を新たにコートに戻ってきただろうことは、すぐに分かった」

 再開後の印象について、ツォンガはそう試合後に振り返る。ストロークの精度も威力も増した錦織は、ツォンガのバックを攻め、相手のフォアを封じた。第3セットと第4セットを錦織が奪い返してファイナルセットに突入したとき、第5シードが勝者の権利を手中に収めたかに思われた。

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