「錦織記念日」に振り返るツアー初優勝。7年前の真実 (5ページ目)

  • 内田暁●構成 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

「おめでとう」

 優しい祝福の後には、父親から激励の言葉が続く。

「また来週から試合なんだから、ちゃんとストレッチをやっておくんだぞ、と言われました」

 18歳のツアー優勝者は、そう言って苦笑した。

 一方、「若きチャンピオン誕生の引き立て役」という損な役回りを引き受けることになったのは、28歳のブレークだ。だが、人格者で知られる男は、「彼は動きが速く、ボールをクリーンに打ち抜く能力が素晴らしい。今のトップ選手に例えるなら、(ノバク・)ジョコビッチに似たところがある」と称賛を惜しまなかった。

 チャンピオンの感激を目撃し、準優勝者の賛辞を聞いてもなお、記者たちの好奇心と取材意欲は収まらない。寡黙な優勝者の言葉を補うように、急きょ呼ばれる錦織のコーチ。

「僕はプロで12年やっていたけれど、会見場に呼ばれたのは、これが2度目だよ」

 現役最高119位の実績を持つグレン・ワイナー・コーチは、そう言って記者たちを笑わせた。

 この大会で錦織はすでに、今に通ずるいくつかの「強さの秘訣」を披露している。

 ひとつは、無類の勝負強さ――。トーナメント5試合を通じて彼は、全出場選手中、最高のブレークポイント阻止率を記録した。2回戦では、12本のブレークの危機をすべてしのいでいる。現在、史上最高の最終セット勝率を誇り、「ツアーきってのクラッチプレイヤー(ピンチに強い選手)」の異名を取る彼の資質は、このツアー初優勝のときから際立っていた。

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