クルム伊達公子の動揺。「その日が確実に近づいている」

  • 神仁司●取材・文 text by Ko Hitoshi photo by Ko Hitoshi

 ツアーの中で台頭してくる才能ある若手がいる一方で、ケガによって戦線離脱を余儀なくされる選手もいる。そんな厳しい競争の中で、クルム伊達は最前戦に踏み止まって戦い続けてきた。

「テニスが自分の好きなスポーツであり、選んだスポーツでもあり、好きで戻って来て、やっている。世界中の多くの人が、このグランドスラムのコートに立ちたいと思っている中で、44歳の私が立てているわけだから、もちろんそれは素直に自分を誇りに思わないといけない。

 ただ、コートに立つことだけで満足しているわけではありません。20歳の選手と同じような気持ちで戦っているつもりではいるので、当然現状に満足することはない。甘えることなく、『昨日より今日、今日より明日、良くなるように』という気持ちを、まだかろうじて見失わない自分がいる限り、まだテニスをやっていると思います。それが、いつどこでプチッと(切れる日が)来るか誰にもわからない。私にもわかりません」

 今年4月までに、クルム伊達はランキングポイント250点をディフェンドしていかなければならない。現在、グランドスラム本戦ストレートインギリギリの位置にあり、WTAツアーではほとんどの大会で予選から戦わなければならない。同時に、ツアー下部のITF大会に出場して、ポイントを獲得するために戦う気力を奮い立たせることができるのか。ケガがどれだけ回復するのかにもよるだろうが、彼女は難しい選択をしていかなければならないだろう。彼女にとって今よりも厳しい状況になるが、ランキングをキープできなかった時に、あるいはラケットを置く可能性もあるのだろうか――。

「その日が確実に近づいているんでしょう。当然、前より近づいているからこそ、もう少しやりたいという気持ちがないわけではない。ただただ、自分の本当の心の奥底で感じるものを、自分が本当に受け入れられる日、瞬間、それを自分自身で気づくしかないのかなと思っています」

 今後クルム伊達は、WTA大会のアカプルコ、モントレー、インディアンウェルズ、マイアミでのプレーを予定している。だが、「もしかしたら、出ていないかもしれませんよ」と、いたずらっぽく笑顔を見せながら大会会場を後にした。

 クルム伊達の2度目の引退が、いつになるのか定かではないが、その時が刻々と近づいていることを感じさせるメルボルンでの戦いだった。この先、彼女がどのような決断をしていくにせよ、最後までプレーを見届けたい。

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