グランドスラム狙う錦織圭。最大の壁は「新生」ジョコビッチ (2ページ目)

  • 山口奈緒美●文 text by Yamaguchi Naomi
  • 真野博正●撮影 photo by Mano Hiromasa

 プレースタイルにも、ジョコビッチのそんな生き方が現れている。

 フェデラーは、天性の才能を生かし、ネットプレイを中心としたオールラウンドプレイで地位を築いた。ナダルは、たぐい稀(まれ)なパワーと左利きの有利性を発揮して、そのフェデラーを打ち崩した。ジョコビッチの強みは、鋼(はがね)のような精神と、プレイの並外れた安定感だろう。

 誰でもフォアハンドとバックハンドとでは、多少なりとも優劣の差があるものだ。一般的に、利き腕からのパワーを発揮できるフォアハンドの威力に才能が現れ、利き腕と逆のバックハンドのショットに努力の跡が現れると言われる。ジョコビッチの場合、その左右のショットに差がない。すなわち、左右どちらからでも攻撃が可能で、左右どちらでも防御ができる。そうして、いつでも、どこからでも、攻撃に転じられるシンメトリーな武器が、これまでも数々の逆転劇を生んできた。

 錦織圭(25歳。日本/世界ランキング5位)はここまで、ジョコビッチには2勝3敗と大健闘している。倒せない相手ではないことは確かだ。特に昨年の全米オープン準決勝(現地時間2014年9月6日)での勝利は、錦織に決定的な自信をもたらした。

 鉄壁の守りを崩す速い攻撃、多彩で正確なテクニック。1セットオールから第3セットのタイブレークを奪っての会心の勝利は、錦織の技術が世界の頂点の扉をこじ開けたことに他ならない。「勝てない相手はもういない」との名文句を吐かせたのは、この試合で得た実感だった。

 ただし、ジョコビッチの状況も今や当時とは違う。昨年のウィンブルドン(2014年6月23日~7月6日)で2度目の優勝を飾った直後に結婚し、全米オープンの1カ月後に長男が生まれた。新しい家族の存在が、ジョコビッチを一段とパワーアップさせたのだ。全米オープンで錦織に敗れたあとは、北京、パリ・マスターズ、ツアーファイナルと、1カ月半の間に3大会で優勝を果たした。

 人口約720万人という東欧の小さな国のヒーローは、まだ27歳。全豪オープン前には、さらなる飛躍への決意表明を行なった。

「このシーズンオフ、父親になったことで、僕は人生の新しいページに入った。喜びと充実感の中で、これからの人生をしっかり見据えている」

 フェデラーは33歳。現在もトップを争う存在とはいえ、年齢的にもピークの時期は過ぎた感がある。28歳のナダルは、全力投入型のスタイルにより、フィジカル・コンディションの維持に苦慮し始めている。これからの錦織にとって、最大の壁となるのは、やはりジョコビッチ。「打倒・ジョコビッチ」なくして、グランドスラム大会制覇という目標は果たせないだろう。

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