25歳の錦織圭が意識する「同世代のライバルたち」 (3ページ目)

  • 内田暁●構成 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 ちなみに、ゴリアテとダビデの戦いは、ダビデの勝利で幕を閉じる。やや身贔屓(みびいき)な見方かもしれないが、人々は時代を問わず、小柄な勇者の痛快な勝利を望む傾向にあるのかもしれない。

 古(いにしえ)の伝承になぞるなら、錦織にとってのもうひとりの「ゴリアテ」が、フアン・マルティン・デル・ポトロ(アルゼンチン/26歳/世界338位)だ。年齢は錦織より1歳上。身長は198センチ。ただ、こちらはラオニッチと違い、どうしても勝てない巨人である。ATP公式戦の初対戦は、ふたりがまだ10代だった2008年の全米オープン4回戦。両者はその5年ほど前から、ジュニア大会などで顔を合わせる仲だった。デル・ポトロは錦織と初めて会った14歳のころを振り返り、「よく覚えているよ。ケイはこんなに小さくてね」と腰のあたりで手をひらつかせた。少年の日の初対戦も、デル・ポトロの完勝だったという。

 196センチのラオニッチやトマシュ・ベルディフ(チェコ/29歳/世界7位)らに勝ち越しているように、錦織は大柄な選手を決して苦手とはしない。ただ、デル・ポトロは、長身な上にフットワークが良く、ストロークに安定感があり、守備も堅いオールラウンダーだ。

「自分の中で、大きな壁になっています。実際に何回も負けている相手だし、突破口というか、ポイントの取り方が見えてない選手」

 ロンドン五輪でデル・ポトロに敗れた後、錦織はそのような所感を漏らしていた。しかし、五輪の後は対戦がなく、その間に両者の立場も大きく変わった。デル・ポトロは昨年3月に左手首を手術し、今年が復帰のシーズンとなる。錦織は周知の通り、世界5位まで上り詰めた。今となっては数少ない「全敗相手」と、真のライバル関係を築くのが今季なのかもしれない。

 もうひとり、忘れてはならない「ゴリアテ」がいた。

 マリン・チリッチ(クロアチア/26歳/世界9位)。こちらも錦織より1歳年長で、198センチの長身選手。対戦成績は錦織が5勝3敗とリードするが、3つの黒星のうちひとつは、昨年の全米オープン決勝で喫したものだ。恐らくは錦織にとって、人生で最も悔しい敗戦の記憶だろう。

 錦織とチリッチには、歩んできた足跡にいくつかの共通項がある。チリッチは、日本デビスカップチームのスーパーバイザーを務めたこともあるボブ・ブレッドの指導を長く受けていた。修造チャレンジのアドバイザーでもあるこの名伯楽には、錦織も「ボブさん」と呼ぶほど親しみを抱いている。

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