錦織圭の転機は、全米OP準優勝の2週間後に訪れた (2ページ目)

  • 内田暁●構成 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

「チャンが来たんだね」。錦織のマネージャーのオリバー・ヴァンリンドンクにそう水を向けると、「大変だったさ。マイケルとは頻繁に話し合いを持ち、いかに今のケイに彼の存在が重要かを説いたんだよ」と、得意気な顔で自分の言葉に深くうなずく。そのマネージャーの説得に応じたということは、東南アジアで行なわれる比較的小規模な大会の重要性を、チャンも熟知していたからに他ならない。

「大きな成績を残した後の戦いは難しい」とは、勝負の世界であまねく知られる常識である。極度の心身疲労、偉業を成し遂げた後の虚脱感、あるいは、周囲や自分自身からかけられる期待やプレッシャー......。錦織本人も、「グランドスラムで活躍した選手は、その後で苦労するイメージしかない」と言っていたが、それは単なる印象ではなく、過去のデータが示す厳然たる事実だ。

 たとえばこの10年間で、グランドスラムの決勝戦を初めて経験した選手は、錦織をのぞくと12名いる。そのうち、グランドスラム決勝後に出場した最初の大会で初戦負けを喫したケースは、実に5名にものぼるのだ。その中には、すでにトップ10に長く定着していたダビド・フェレール(スペイン)も含まれている。

 ちなみに12選手のうち、直後の大会で優勝を果たしたのは、わずかに2名。その2選手こそが、現世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)と、同6位のアンディ・マリー(イギリス)だ。加えるなら、初のグランドスラム決勝で準優勝の結果に終わりながら、後にグランドスラムのタイトルを手にしたのも、この2名のみである。

 つまり、先達の例に照らし合わせるなら、錦織にとって全米オープン直後のマレーシア・オープンこそが、後のキャリアの行方を決する分水嶺になりえる大会だ。眉間に深いしわを刻み、コート上の愛弟子に厳しい視線を送るチャンの姿が、その事実をシンボリックに物語っていた。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る