錦織圭が語る、トップ選手としての「葛藤」と「覚悟」 (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 今季の目標を明言した錦織は、さらに表情を緩め、こうも続けた。

「最近では、日本でもニュースになって、みんなにも言われるし……。ロンドンなんて、みんな知らなかったのにと思ったり」

 そう言って浮かべる照れと、戸惑いの混じった笑みに、彼を取り囲む状況の急激な変化が端的に映し出される。それら精神的な困難に打ち勝ったこと、そして、「フィジカル面でも強くなったことを証明できた」という意味でも、今回の優勝は「すごく大きい」と彼は言った。

 そして、全米後に迎えた最初の難関を優勝という最高の形で終え、次に彼を待ち受けるのは、恐らく最大級の試練だろう。

 日本開催の、楽天ジャパンオープン――。

 ホーム開催のこの大会は、錦織に地の利というアドバンテージを与えると同時に、社会現象とも言える過剰な注視と期待が、負担として圧し掛かる。その熱狂空間に足を踏み入れることについて、彼は、「ちょっと不安はありますね。硬くなるんじゃないかとか、空気に飲みこまれるんじゃないかなとか……」と、素直に本音を口にした。

 だが、自分のやるべきことは、分かっている。

「それよりも、今は自信があり、良いテニスもできている。一番はやはり、雰囲気に負けないことと、自分のプレイをしっかり心がけること。あまり周りの目は気にせず、自分のやれることを、まずはしっかりやりたいと思います」

 地元で受ける周囲からの期待を、彼は、「当然」だと覚悟しているだろう。それに応えてこそのトッププレイヤーだとの、自覚や矜持(きょうじ)もあるはずだ。

 日本人初のグランドスラム準優勝者として、初めて迎える日本開催の大会という状況に、錦織圭がいかに立ち向かうのか――。今、この時しか見られぬその戦いを、しっかりと目に焼き付けておきたい。

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