錦織圭が語る、トップ選手としての「葛藤」と「覚悟」 (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 興味深いのは、このワウリンカとほぼ同じ言葉を、今回の錦織が残したことだ。

「気持ち的には、葛藤がいろいろとありました。やはり全米で準優勝したので、ひとつ何かうまくいかないと、『こんなはずじゃない』と思ったり......。あれだけの結果を出して自信がついた分、気持ちのハシでは過信したりする部分もあるので......。ああいう大きな結果の後では、気持ちの部分が一番大きいですし、一番気をつけているところです」

 そう振り返ったのは、マレーシアオープン序盤のことだった。

 自信と過信はコインの表裏であり、好成績が生む光と影だろう。ボタンをひとつかけ間違えば、たちまち影の負のスパイラルに飲み込まれる可能性もある。ただ錦織は、その危険性を客観視し、熟知した上で、今回の戦いに挑んでいた。

 全米オープンは、すでに過去のモノとなっているのか――?

 そう問うと、錦織は、「なるべくそうしてますね。なるべく忘れて......あまり充実感に浸り過ぎないように、気持ちをすっかりゼロに戻して」と言うと、一度言葉を切ってから、こう続けた。

「それが、できていると思います」

 マレーシアオープンでは、気持ちを「ゼロに戻して」勝ち進んだ錦織だが、決勝戦では、新たな葛藤にも直面した。

「決勝までは、気持ち的にまったく考えずスイスイ来たのですが、やっぱり決勝前日の夜から、250(※)が掛かっていると思うと、眠れなかったり、プレッシャーも出てきて......」

※マレーシアオープンは「ATPツアー250」のカテゴリー

 1時間47分の熱戦を制して決勝を制し、優勝を決めた後に錦織は安堵の表情を浮かべ、そう認めた。彼が言う「250」とは、この大会優勝で得られるATPランキングポイント数。その250ポイントが重要なのは、今季のポイント獲得上位8選手のみに与えられる、11月ロンドン開催の「ツアーファイナル」出場権にかかわってくるからだ。錦織は現在、今季のポイント獲得数で6位につけている。マレーシアオープン優勝による順位変動はなかったものの、7位の選手とのポイント差を310まで広げられたのは大きい。

「今はとりあえず、ロンドンを目標にしています。今年はこれだけ近づいて、完全に(出場を)狙える位置なので、この250ポイントは大きいと思います」

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