ハンパじゃない。錦織圭「世界8位からの戦い」 (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki 真野博正●写真 photo by Mano Hiromasa


 この出場義務と綿密に関わってくるのが、「ランキングポイント」である。選手のランキングは、過去1年間に出場した18大会(※)の累積ポイント数で決まるのだが、グランドスラム4大会とマスターズ8大会の計12大会は、成績の如何を問わず強制的にカウントされてしまうのだ。つまり、もし初戦で敗れ......、それどころかケガや病気などで欠場した場合でも、ランキングポイント0としてカウントされるのである。

※18大会の累計ポイントは、グランドスラム4大会とマスターズ8大会の計12大会での成績を加え、それ以外に出場した試合で高ポイントを獲得した上位6大会を加えて計算する。

 では、選手たちはなぜ、このランキングにこだわるのか? それは、ATPランキングによって、「シード順位」が決まるからである。テニスの大会はトーナメント形式のため、いかに大会序盤で体力を温存しつつ勝ち上がって行くかが、好成績のカギとなる。グランドスラムの場合は、「シード」は上位32選手が対象になり、その中でも上位16以内、上位8以内......と細分化されていく。錦織のランキングは現在8位であり、この地位を維持できれば今後、グランドスラムでも第8シード以上が与えられる。そうなれば、準々決勝までは自分より上位の選手と当たらずに済むのだ。

 故に、ランキングを高く保つことは、大会での上位進出の確率を高めることと同義だ。言いかえれば、年間最低18大会に出場し、そのすべてでコンスタントに成績を残していかない限りは、グランドスラムで結果を残すことも困難となる。時々、「グランドスラムで結果を残したいなら、無理して他の大会に出ず、しっかりピークを合わせるべき」という声も聞こえてくるが、ここまで述べてきたようなテニス界の事情のため、そうは問屋が卸さないのである。

 前置きが長くなったが、錦織のケースに目を向けてみよう。先述したように「マスターズ1000」の8大会は強制的にランキングの対象となるが、今季の錦織はそのうち3大会を、ケガなどの理由で欠場している。ケガなく大会に出ていくことは、錦織の課題であると同時に、来季以降の「伸びしろ」だ。錦織は今回の全米オープンで、4時間超えの試合で連勝し、さらに世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)相手に炎天下で2時間52分の死闘を制している。そのことについて錦織は、「自分でも、どうしちゃったんだろうという感じで......」と照れ笑いを浮かべ、「体力面で問題なく試合ができているのが、一番自信になっている」とも大会後に振り返った。

 この点に関し、錦織のトレーナーの中尾公一氏は、「中1日の休養があるのが大きい」と指摘する。グランドスラムは悪天候などがない限り、隔日に試合が行なわれ、連戦になることは少ない。ケガや疲労、痛みの回復は基本的には「食べることと、眠ること」でしか成されず、だからこそ、たとえ24時間といえども、試合がない日の存在は周囲が考えるより大きいようである。

 ただ、その休養日がなく、連戦を強いられる局面が多いのが、マスターズ1000の大会だ。マスターズが、グランドスラムよりある意味で過酷と評されるのはそのためであり、「グランドスラムで準優勝できたのだから、マスターズではそれ以上」などという単純なロジックは、当然成り立たない。

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