王者・ジョコビッチが認めた錦織圭の「新たな武器」

  • 神仁司●取材・文 text by Ko Hitoshi photo by Ko Hitoshi

 王者に対して、試合の主導権を握っていたのは、錦織だった。試合中、錦織の足はよく動き、速いテンポでボールを打ち返して、ジョコビッチにストロークのリズムをつかませなかった。また、ジョコビッチのセカンドサーブでのポイント獲得率がわずか37%にとどまったのは、リターンやラリーで、いかに錦織がジョコビッチにプレッシャーをかけていたかを物語っている。世界一のディフェンスを誇るジョコビッチから、フォアもバックも13本のウィナーを奪ったのは、特筆すべきことだ。

 4セットで敗れたジョコビッチは、もはや錦織の武器が、フォアハンドストロークだけではないことを痛感させられた。

「今、圭はフォアハンドだけに頼らない。彼のバックハンドは、とても安定している。本当にアグレッシブだ。動きがとても速く、ボールを打ち返して来る。浅いボールはすべてアタックしてくる。オールラウンドプレーヤーだと思うね」

 ついに錦織は、USオープン準決勝で王者ジョコビッチを破り、自身初となる決勝進出を決めた。グランドスラムで決勝に進出するのは、日本テニス史上男女を通じて初めての快挙だ。新たな歴史をつくった錦織のATPランキングは、この時点で自己最高の8位になることが決まっている。

「もちろん嬉しいですけど、レコード(歴史的記録)は気にしないです。グランドスラムの決勝に出ることは、僕にとって初めてのことなので、もちろん緊張したりもするだろうけど、しっかり気持ちの準備を整えておきたい」

 錦織が17歳の時、初めて一緒に練習した時から彼の才能を評価していたロジャー・フェデラー(3位/スイス)は、別に衝撃的なことではないといった様子で、次の時代を担う選手が出現したことに喜んでいるようだった。

「圭は、すでに僕を2度も破っている。(2014年の)マドリードの決勝では、ラファ(ラファエル・ナダル/2位/スペイン)を圧倒した。圭はできる限りの力を示してきた。だから圭の活躍に関して、本当に驚きはない。圭は、USオープンで素晴らしいテニスをしている」

 決勝の対戦相手は、準決勝で第2シードのフェデラーをストレートで破り、初めてグランドスラムの決勝に進出した第14シードのマリン・チリッチ(16位/クロアチア)。錦織より年齢がひとつ上で25歳だが、「(準決勝で錦織は)ベースラインからのプレーが、ノバクよりものすごく良かった。ツアーで、そんなことができる選手はそう多くないよ。圭は、すごく進化している」と、錦織の成長を認め、警戒している。

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