【テニス】急成長の奈良くるみ、四大大会初シードの可能性 (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 そんな奈良と伊達公子との関連性でいうと、奈良は今大会、実に示唆(しさ)に富んだコメントを残していた。アメリカ人メディアから、「キミコ・ダテという偉大な先輩の影響は受けたか?」と問われた彼女は、次のように答えたのである。

「伊達さんのことを尊敬しているし、良いお手本でもある。具体的なアドバイスなどをもらうわけではないけれど、試合を見ていて、彼女の自信に満ちたプレイなどはとても参考になる」

 つまり奈良は、伊達の技術をマネるのではなく、テニスに向きあう姿勢や意匠を学んでいるのである。世界4位に達した伊達の才能は、ライジングやフラットショットという技術ではなく、世界に通用する独自の武器を生み出した、その独創性にこそあるはずだ――。そんな伊達の強さの本質を、奈良は目で、耳で、そして肌で感じ取ってきたのだろう。プレイスタイルこそ大きく異なるが、対戦相手の目に異質に映った155センチの奈良の姿は、オリジナリティという意味において伊達のテニスと通底する。

 今大会での快進撃は、結果として奈良を世界ランキング33位まで押し上げた。この30位台前半のランキングは、テニスの世界では特別な意味を持つ。なぜなら、グランドスラムでは上位32人に『シード』が与えられ、そうなれば3回戦までは、自分より上位の選手と当たらないからだ。全米オープン開幕まで、あと3週間――。奈良は今、その領域に限りなく肉薄した位置にいる。

 もっとも、当の本人は「そんなこと、あんまり考えなかったです」と、喜びの声に驚きの色が混じった。

「とにかくこのアメリカシーズンでは、また自分が成長していけるよう頑張っていきたいです。アメリカのハードコートとは相性が良いので、これからの試合もとても楽しみです」

 それこそが今の彼女の、偽らざる思いだろう。

 新たなプレイスタイルを模索した結果、コート上の表現力に幅が増し、日々、自分のテニスの輪郭が明瞭になっていく――。そんな彼女が進む道の先は、『シード選手』の権利と栄誉も、通過点として待っていそうだ。

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