同世代・神尾米が語る「43歳になったクルム伊達」の魅力

  • 内田暁●構成 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

ウインブルドンと伊達の相性

 ウインブルドンという大会は、私たちすべてのテニス選手にとって夢でした。子供のころは、「テニスと言えばウインブルドン」。テニスとウインブルドンは、イコールくらいのイメージだったんです。

 その憧れの舞台に、出てみたい。出たら、今度は勝ちたい――。そう思わせてくれる場所でした。選手時代は、「ウインブルドンで1勝すれば、胸を張って日本に帰れる」と思えたくらいです。

 それが何故かと言えば、やはりすべてが厳格だからです。例えばウインブルドンは、予選と本選の会場が違うんです。そのことは以前から知っていたのですが、実際に初めて予選に出たとき、予選のパスでは、本大会の会場にも入れないことを思い知らされました。会場の門の前で、追い返されたことをハッキリと覚えています。もう、泣きたかったですよ(笑)。悔しくて、悔しくて......。それで、「いつか絶対に、ここの芝生を踏んでやる!」と心に誓い、ウインブルドンの本選で勝つことにかけていました。

 私たちの世代の選手は、みんなそうだったと思います。ウインブルドンはロッカールームも3つあって、シード選手と、中間くらいの選手、そしてそれ以下......というふうに分かれているんです。私も最初は一番下で、2番目までは行きましたが、その上までは行けなかった。「ここはやっぱり、すごいな~」と思いましたね。

 そんなウインブルドンの特性のひとつである芝のコートは、伊達さんのテニスがすごく生きる場所だと思います。まずはバウンドが低いので、伊達さんの最も好きな打点でボールを捕えることができるんです。伊達さんはボールの跳ね際を低い位置で捕えるのが好きで、テイクバックもラケットを下げます。ですので、低い位置だと一番スイングスピードの速い打点で捕えられ、ネットのギリギリを通すことができます。

 もちろん、速いコートというのは、相手のボールが速いということでもあるのですが、伊達さんは読みが良いので、スピードについていけるんですね。相手が強いボールを打ち込めば打ち込むほど、テンポ良くポンポンと返していく。そのリズムが、相手には非常にやりづらいんです。自分のリズムがつかめず、最後はムキになって崩れた体勢で打ってミスになる。負ける人は、みんなそのパターンです。

 それに芝は、展開や仕掛けも早いので、伊達さんの潔さが利くコートだとも思います。伊達さんは、勝負どころで迷いがない。実際は伊達さんだけでなく、ここぞというときにリターンで勝負に行くべきことは、すべての選手が分かっているんです。「どうしよう?」と思っている選手なんて、いないです。でも、普通はいろんなことを考え、迷ってしまう。「球種はスピンか、それともスライスか? コースはどちらに来る?」と思っていると、行きたくても行けなくなってしまう。でも伊達さんは、「こう」と決めたらブレない。「バックに来たら、ストレートに返す。こっちに来たらクロスに打つ」というふうに決めているように思います。その割り切り方がすごいんです。

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