フェデラーと互角。ウインブルドンに自信深めた錦織圭 (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

「スコアを数え間違えていたんだ。勝利にはもう1ポイント必要だと思ったら、観客が歓声をあげるし、主審や(錦織)ケイも笑っていた。こんなこと、1000試合以上やってきて、一度も経験のないことだよ」

 そう言って王者の浮かべた照れ笑いこそが、スコア以上に競った激戦の残り香である。

 一方の錦織は、敗戦直後は全身から悔しさを発していた。だが、それでも表情が充実感に満ちていたのは、「去年や一昨年より、格段と良いプレイができている」ことを、芝の上で再確認できたからだろう。それは、芝でのテニスが上達したというよりも、彼のテニスがあらゆるコートに適応できる全能性を備えてきたためである。

「テニスそのものが、去年よりも良いです。サーブも良いし、アグレッシブなプレイができている。芝でやるにあたり、変えなくてはいけないところもあるけれど、元がしっかりしているので、芝であろうとチャンスはあると思っています」

 それが、今シーズン最初の芝の大会となったゲリー・ウェバー・オープンでも、準決勝まで勝ち上がりフェデラーと互角に戦えた要因だ。

 10カ月以上の長丁場に及ぶテニスの年間ツアーにおいて、芝のシーズンが占めるのは、わずかに数週間。その短い季節にテニスプレイヤーたちが情熱を注ぐのは、テニスの世界で最も権威ある大会とされる、ウインブルドン選手権があるからだ。

 フェデラーの強さが鮮烈に焼きついたテニスの聖地の青芝に、錦織は今回、どのような衝撃を上書きしに行くのだろうか?

「(ゲリー・ウェバー・オープンで)3試合やって、しっかり戦えるというのも分かったので、自信を持ってウインブルドンに挑みたいです。今は芝で嫌なところが思い当たらないので、これからもっと違うタイプの選手とやることによって、自分もレベルアップできると思います」

 では、ウインブルドンでの具体的な目標はあるのか――?

 そう問われた錦織は、どう答えるべきか迷ったような笑みを浮かべ、「う~ん」と軽く唸った後に、恐らくは最も正直に、胸の内を口にした。

「今までで一番、芝でも良いプレイができているので、そりゃあやっぱり今まで以上……昨年の3回戦より上は、最低でも行きたいですね」

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