フェデラーと互角。ウインブルドンに自信深めた錦織圭 (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 錦織が答える。

「あまり、特別にはなかったですね。たぶん彼も僕自身も、『試合をやりに行くだけの相手』という感覚は、もうなくなっていますから」

 フェデラーが特別な存在という時期は、もはや過去だということだろう。「試合をやりに行くだけの相手はいない」という言葉の意味を、錦織はこう説明する。

「誰とやろうと、勝ちにいく気持ちで向かえています。勝てるチャンスはあるし、自分もそういう認識が頭でできています」。

 精神面で言えば、それが今年に入り最も大きく変わった点だと言う。

「以前は、格上の選手とやるときは構えてしまったり、勝ちを信じる気持と疑う気持ちが50-50(フィフティ・フィフティ)というか......100%勝ちに行くと言う想いがなかなか作れなかったりしました。それが今はまったくないので、そこは変わってきていると思います」。

 冷静な口調で自身の成長を分析する錦織だが、ふっと表情をゆるめて、こうも続けた。

「そのことは、彼(チャン)にも口を酸っぱくして何回も言われているので......だいぶ備わってきましたね、そういうメンタリティが。たまに、1日3回くらい言われたりしますし」

 そう言って、照れと苦みが混じった笑いを浮かべる彼の姿は、先生にお小言を頂戴している生徒のようで、どこか微笑ましいものがあった。
 
 そのように「100%勝つ」メンタリティで挑んだフェデラーとの準決勝ではあるが、結果から言うと、最後に勝者として勝ち名乗りを受けたのは、フェデラーである。錦織は、芝の特性を生かしサーブでポイントを重ねていったが、試合を通じてわずか2本しか許さなかったブレークポイントをいずれも奪われ、僅差で敗れたのだった。

 ただひとつ加えるなら、先ほど、「フェデラーが勝ち名乗りを受けた」と書いたが、この表現は少々正確性に欠ける。実はこの試合、フェデラーは勝利の瞬間もその事実に気付かず、プレイを継続しようとしたのである。そのため彼は、主審やプレイヤーズボックスに座るコーチたちから、驚きと多少の気恥ずかしさとともに、勝者だと告げられたのだ。

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